Home > 楽器 > ラナート

ラナート Archive

ラナート・エク(3) ― タイ伝統楽器について(7)

タイ伝統楽器について、ラナート・エクの3回目です。

○ラナート・エクのマレット - マイ・ヌアムとマイ・ケン

ラナート・エクには、ヘッドが異なる2種類のマレット(バチ)があります。マイ・ヌアムとマイ・ケンです。この2つは、音色に大きな違い・特色があり、ラナート・エクの表現力を拡げています。それぞれの音色を生かした合奏形態で使われます。

左:マイ・ヌアン 右:マイ・ケン

左:マイ・ヌアム 右:マイ・ケン

○マイ・ヌアム ― 優美・協調性

マイ・ヌアムのヘッドは、布と糸で巻き固めたものです。これだけではヘッドが軽すぎるので、ラナートなどの調律用のチューニング・レド(鉛とビーズワックスの混合物)を使って重さを調整しており、ヘッドとシャフトの適度なバランスを保っています。

マイ・ヌアンのヘッド

糸で巻き固めてたマイ・ヌアムのヘッド

マイ・ヌアムで奏でるラナート・エクは、マリンバに似たやわらかく温和な音となります。合奏に溶け込み、長時間聴いていても疲れない音です。(ちょっと眠くなるかもしれません。)

マイ・ヌアムでラナート・エクを叩いてみると、(録音があまり良くありませんが)このような音です。 マイ・ヌアムの音

ラナート・エクにマイ・ヌアムを使用する代表的な合奏として、ピーパート・マイ・ヌアムがあります。ピーパート・マイ・ヌアムは、代表的なピーパート合奏(マイ・ケン)の構成楽器について、管楽器のピー・ナイ(リード管)をクルイ・ピアンオー(フルー管)に変更し、ソー・ウー(擦弦楽器)を加えた合奏です。合奏規模が複数ありますが、楽器編成の変更とマイ・ヌアムによって、通常のピーパート(マイ・ケン)合奏よりもやわらかく落ち着いた響きの合奏になります。その他では、マ・ホーリ、ピーパート・ドゥク・ダム・ボンで使われますが、いずれもマイ・ヌアムのソフトな音質が合奏をまとめています。 

 

○マイ・ケン ― 力・自己主張

マイ・ヌアムよりヘッドがやや小ぶりです。ヘッドの基本構造はマイ・ヌアムと同じですが、ラック・ゴムを塗り固めて表面を硬くしています。このラック・ゴムの塗布・乾燥工程が加わって製造工程として手間がかかるため、一般的にマイ・ヌアムよりも高価です。さらに特別生産の一品物には、きわめて高価なものもあるようです。(簡単に工場から卸してもらえません。)

マイ・ケンで奏でるラナート・エクは、木製の鍵盤から発音していると思えないほど金属的ですが、輝かしく華やかな音色で強烈に主張し、かつ豊かな音量で演奏会場を圧倒します。マイ・ヌアムの「マリンバ」に対して、マイ・ケンは「シロフォン」の音色に相当します。しかし、シロフォンほど軽やかではなく、重厚な上での華やかさです。まさしくピーパート合奏の花形としての感があります。

マイ・ケンで叩いた音です。 マイ・ケンの音

マイ・ケン ヘッド

硬質のゴムで表面を固めたマイ・ケンのヘッド

マイ・ケンは、正統的なピーパート合奏(ピーパート・マイ・ケン)の他、ピーパート・モン(葬儀で行われる合奏の形態)、ピーパート・ナン・ホンで使われます。

マイ・ケン ヘッド

ピーパート・マイ・ケン、ピーパート・マイ・ヌアムの響きの違いは、きちんとした演奏(こちらのCD)を聴いていただくと、さらによくわかると思います。(PEE-PARD MAI KANG ,PEE-PARD MAI NOUM)

CDコーナーでは、マ・ホーリ合奏、ピーパート・モン合奏のCDも、近々UPの予定です。

ラナート・エク(2) ― タイ伝統楽器について(6)

タイ伝統楽器について、ラナート・エクの2回目です。

○ラナート・エク概観

ラナート・エクの構造はきわめて単純で、舟型の共鳴胴の上に鍵盤を吊るしただけです。共鳴胴は上部が開いた箱で、船の形そのものです。水に浮かべればおそらく浮くでしょう。我々の感覚では、この姿形からは刺身を並べたものが容易に想像されます。共鳴胴の素材としては、ドリアン、マンゴー、カヌン、チーク、カリンなどが使われます。

ラナートの共鳴胴と鍵盤

鍵盤には両側に穴があけてあり、そこに細いロープを通して並べたものを共鳴胴の上に懸垂します。鍵盤の素材は、紫檀、手違紫檀、チークなどが使われます。鍵盤の裏の両端には調律用の錘(チューニングリード)が取り付けられています。鍵盤数は22ないし21鍵ですが、最近の楽器では22鍵が普通です。

ラナート鍵盤裏側

共鳴胴と鍵盤は、それぞれに楽器の特徴を引き出すものですが、特に鍵盤はラナートの音色を直接的に左右するきわめて重要な部材です。ですので往々にして共鳴胴と鍵盤は別々に販売されます。

 

○ラナート・エクの種類

ラナート(木琴)には音域により「ラナート・エク」と「ラナート・トゥム」があることは、ご存知の方も多いかと思います。そのラナート・エクにもいくつかの種類があります。

 

1.ラナート・エク・ピーパート

普通、「ラナート・エク」といった場合、「ラナート・エク・ピーパート」を指します。ピーパート合奏やソロ演奏に使われる楽器です。幅が120~130センチ程度の大型の楽器です。

ラナート・エク・ピーパート

 

2.ラナート・エク・マホーリ

下の写真の左が通常のラナート・エク(ピーパート)ですが、右の楽器はやや小ぶりです。これは、マホーリ合奏の一形態であるマホーリ・クルアン・ペートに用いられる楽器で、”ラナート・エク・マホーリ”といいます。楽器形状、機能はラナート・エク・ピーパートと同じですが、楽器の大きさが若干小さくなります。現代では女性のラナート奏者も珍しくないですが、ピーパート合奏の演奏は、歴史的に男性の世界です。ピーパートで使用されるラナート・エク・ピーパートは、タイの小柄な女性にはやや手に余る大きさです。一方、マホーリ合奏やクルアンサーイ合奏には女性奏者が入ってきます。(特にクルアン・サーイでは女性が主体的) ややコンパクトなラナート・エク・マホーリは、マホーリ合奏における女性プレーヤーに合わせたもののようです。

右がラナート・エク・マホーリ 左がラナート・エク・ピーパート

ラナート・エク・マホーリを見かけることは少ないと思います。当店で取引している工場でも、通常の生産ラインでは製造していません。

 

3.ラナート・エク・ラーントン

タイ伝統音楽は、式典など格式の高い場において演奏される機会が多いのですが、場に合わせて「正装した」楽器が使用される場面も多くなります。楽器の種類と言えるかどうかわかりませんが、共鳴胴全体に緻密な彫刻が施され、金ぱくや螺鈿で装飾された楽器は、「ラーントン」と呼ばれています。

バンコクの国立博物館に行きますと、古びたラーントンを見ることができます。また、演劇の伴奏や市中の寺院などで催されるタイ・ダンスの伴奏でもよく目にします。

ラナート・エク・ラーントンは、その製作にあたって材料費・製作の手間とも莫大になるため、きわめて高価です。当店では今のところ扱っていませんが、この手の楽器には装飾に象牙を使用したものも多く、日本に輸入できる楽器は限られると思います。

ラナート・エク・ラーントン

 

次回は、ラナートの音を大きく左右する「マレット」、「チューニングリード」などについてお伝えしたいと思います。

タイ伝統楽器の材料について(2) ― チーク 

1年ぶりの「タイ伝統楽器の材料について」ですが、今回はチークについてお伝えしたいと思います。

チークは、タイを含むインドシナ半島をはじめとして、ミャンマー、インドなどで産出される木材です。耐久性、耐腐食性などにおいてたいへん優れた性質をもち、さらに見た目の美しさも備えた貴重な樹種です。世界的に広く利用されており、よく知られた木材です。

○チークといえばタイ、タイといえばチーク

タイでは北部から西部にかけて混生落葉樹林(モンスーン林)として生育しています。タイにおける気候条件、一年を通じて風速が緩やかであるなどの条件がチークの生育に好条件であり、タイの林業の中核をなすものが高品質のチークの生産でした。もともと現地では、主に建築材として利用されていたようで、特に北部のランナー朝の寺院や宮殿では、ふんだんに用いられたチーク材を目にすることができます。19世紀後半に欧米に知られるようになってから伐採量が急増し、天然林が激減しました。現在、タイ国内では、厳重な管理の元に植林が行われているようです。伐採は全面的に禁止と記憶していますが、現在はどうなのでしょうか。

チーク材を多用した建築(ワット・チェン・マン)

 陸上輸送の手段が発達していなかったタイやミャンマーでは、水上輸送により消費地へ運ばれていました。北部原産地で伐り出されたチークは、像や牛によって河岸の集積場まで搬送されて一旦集積され、その後、雨季の増水時にその水流を利用して運ばれていました。川の途中の集積地までは管流しという形で「放流」され、集積地でいかだに組んで輸送するといった方法です。「放流」ですから、途中で引っかかったり沈んだり、なかなか難しいもので、原産地で伐採されてバンコクに到達するまで5年程度はかかったようです。特に管流しでは、途中でなくなってしまうものも多く、一定の損失がつきものでした。

 ちなみに、輸送の途中でなくなってしまったチークを拾い集めるといったビジネスが、現在も存在します。特に、水中に沈んでしまったようなチーク材には良質なものが多く、貴重だとのことです。ゴルフ場の「ロストボール」拾いのようなビジネスですが、ミャンマーでは日本人の方でこのようなことをやっておられる方がいらっしゃいました。

チークをタイ語で「マイ・サク」と呼びます。マイは木を意味しますが、サクは染料を意味します。これは、チークの葉から赤色染料を採集したことに由来するようです。
建築をはじめとして艦船、車両の材料として利用されてきたチークですが、現在のチーク材の利用としては、高級家具や装飾品が最も身近なところでしょう。チークの木彫りは、タイの土産店の定番アイテムのひとつです。

チーク材の木彫り(チーク材を曳く象)

○楽器材としての利用

タイ伝統楽器でも、ややハイグレードの楽器の主材料としてチーク材が用いられています。キム・ピースアの上級モデルとしてチーク材の楽器を用意しているメーカーが多いので、これをよく目にするところです。キム・ピースアの優美な形とチークの肌理・色合いは、たいへんよくマッチします。他の楽器では、ラナートなどでチーク材が使われることがあります。素材の性能はともかくとして、見た目の主張が強い材料なので相性が問われるでしょう。

キム(チーク材)

アジア オーケストラウィーク2009 聴いてきました。

先日ご紹介しました「アジア オーケストラウィーク2009」(東京オペラシティ コンサートホール)の初日、タイ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏を聴いてきました。

 

冒頭は、本日最も期待のラナート演奏です。開場後にはすでにステージ上にラナートがセッティングされており、普通のコンサートとは一種異なる雰囲気を醸しています。

このラナート、タイ舞踊の伴奏等で用いるラーン・トン(金ピカの装飾楽器)ではなく完全なコンサート用楽器ですが、木目がたいへん美しく見るからに高価な楽器です。(ウン十万バーツ級?)

曲はソロ・ラナートとオーケストラ伴奏の「マー・ヨーン」です。ラナートのパロン・ユエンヨンは、このようなコンサートのステージにはあまり慣れていない様子で着席。演奏開始直後はやや緊張が見られましたがすぐにペースに乗り、その後はこれでもかこれでもかと繰り出す超絶技巧の連続。ただただ唖然とするばかりです。演奏の中にはちょっときわどいところもありましたが、それがほとんど帳消しになってしまうような演奏です。マイケン(マレットの種類名)が放つ華やかな音は1600席のホール全体に鳴り響き、オーケストラのトゥッティ(全奏)にも決して引けをとらない音量でした。

パロン・ユエンヨンはたいへん朴訥とした風情の青年ですが、彼の演奏前後のぎこちない所作と、それとはまったく別人のような華麗な演奏とのギャップが印象的でもありました。

 

2曲目はタイのチェロ奏者タパリン・チャロンソックのコンチェルトです。音量に乏しく、やや迫力に欠く演奏でしたが、こじんまりと丁寧にまとめたといった感じです。

 

 

さて、オーケストラ自体ですが、”助っ人”が2~3割程度入っており、外国人を上手に使いこなすタイの伝統(?)といったところでしょうか。パートによっては今後の精進を願わずにはいられないところですが、全体的にはそこそこのレベルにあるものと感じます。また、今回の海外公演に対しては相当な思いがあったのか、特にメインのシンフォニーでは、強い熱意が伝わってくる好演奏でした。

 

しかし、とにかくラナート演奏はすごかった。タイ音楽の歴史の中で、ラナートの演奏技術がいかに発展したかを見せつけられるものでした。このようなラナートを今後も聴いてみたいものです。

ラナート・エク(1) ― タイ伝統楽器について(5)

「楽器について」 ― 今回は、タイ伝統楽器の中でもキム、ソーウーと並んでお問い合わせの多いラナート・エクについてお伝えします。

ラナート・エクは、木片が奏でる硬軟織り交ぜた美しく神秘的な音色を持ちますが、タイの音楽史上、演奏技術が高度に発達した経緯から、たいへん幅広い音楽表現が可能となった旋律打楽器(木琴)です。ピーパート合奏における中心的な役割を担う、タイ伝統音楽における代表的な楽器のひとつですが、近年、ラナートを題材にしたタイ映画が大ヒットし、この映画が本邦で上映されたことから日本でも知られるようになりました。

ラナート(ピーパート合奏用)

ラナート・エク

○ラナートの起源

木琴という形態の楽器がタイに現れたのは、アユタヤ時代の後半と考えられており、その起源にはいくつかの説があります。そのひとつは、「クラップ・セーパー」という拍子木の発展形というものです。クラップ・セーパーの「セーパー」とは、楽器の伴奏に合わせて独唱する長篇劇詩ですが、セーパーの長い詠唱で合いの手のような役割をするのがクラップ・セーパーです。このクラップ・セーパーを台に吊るしてマレットで叩くことを誰かが考えつき、さらに音程という概念を加えられて木琴に発展したのだろうという説です。もうひとつは、タイで生まれたのではなくクメールから移入したという説です。その根拠は、当時、大陸部の音楽文化に影響を与えていたジャワ島に、すでに木琴が存在していたことによります。

クラップ・セーパー

○ラナートの語源

「ラナート」という語は、ソーサームサーイ(=弦楽器+三弦)やコンウォン(=鐘+円状)のような楽器の種類・形状を表す単語ではありません。ラナートの語源にもいくつかの説があります。ラナート・エクの共鳴胴の形状は、タイの運河を行き来する小舟の形状に酷似しています。ラナートという語には、ある種の船の梁材の意味もあり、ここから来ているという説がひとつです(タイ語の辞書をひっくり返してみると、「船底に敷く竹のござ」という意味もあります)。

もうひとつは、インドの古典楽器のひとつに”ヴィーナ”という弦楽器がありますが、ここから来ているという説です。ヴィーナはチューニングが固定された楽器であり、ヴィーナのサンスクリット語名raghunatha-venaが、同じ固定チューニングのラナートに流用されたというものです。

 

○ラナートという楽器は

数年前に伝説的ラナート奏者を題材にした映画「ホームローン」(日本名:風の前奏曲)が上映されたためか、東南アジアの数ある伝統楽器のひとつであるラナートが、日本でも知られた存在になっています。その割には、演奏シーンがタイ舞踊の伴奏や式典に限られるため、実物を見て演奏を聴く機会はキムやソーウーに比べるとやや少ないかもしれません。

 

 

まず、楽器の大きさですが、想像される以上に大きい楽器かと思います。「風の前奏曲」を銀座テアトルシネマでご覧になった方は、映画館のロビーにラナートが飾ってあったのを覚えていられるかもしれませんが、イミテーションなのか妙に小さいものでした。ピーパート合奏用の実楽器では、全幅130センチ程度の大きさです。ピアノと比べてみますとその大きさがわかるかと思います。ピアノの幅よりやや小さいくらいです。

 

次回以降、ラナート・エクを少々細かく見ていきたいと思います。

○お知らせ

冒頭の写真の後(および最後の写真)のラナート・エクを、現品格安にて販売いたします。詳細につきましては、以下までお問い合わせください。

mail01@kruang-dontri.com

アジア オーケストラウィーク2009(ラナート演奏が聴けます)

文化庁が主催する「アジア オーケストラウィーク2009」に、タイ・フィルハーモニック管弦楽団が登場。ラナートの演奏が聴けます。

毎年、アジア各国のオーケストラを招へいし、各国の特色を生かした興味深いプログラムで公演を行っていますが、第8回目の今年はタイ・フィルハーモニック管弦楽団が登場します。

プログラムの冒頭は、新進気鋭のラナート奏者によるタイ古謡「マー・ヨーン(歩む馬)」

(ラナートソロによる「マー・ヨーン」のCDはこちら:ディヨウ・ラナート・マー・ヨーン

おそらくオーケストラをバックにしたラナートのソロ演奏になると思いますが、日本国内でラナートの本格的な演奏を聴くことができる貴重な機会かと思います。

2曲目は、タイのソリストによるチェロコンチェルト、メインはチャイコフスキーの交響曲といったスタンダードなプログラムです。

○詳しくはこちら

アジア オーケストラ ウィーク 2009 アジアの音楽家たちが、いま熱い。

Home > 楽器 > ラナート

Search
Feeds
Meta

Return to page top